こころの病にたいして人間関係から迫る対人関係療法とは
◆ 「個人の病理」の視点
こころの病を考える場合、2つの視点があります。
ひとつは 「個人の病理」の視点で、医師の視点とも言い換えられます。 目の前にいる患者の症状や発育歴に焦点をあて、病気を診断し、その治療に注力します。
しかし、こころの病の場合には、身体疾患とは異なり、それだけでは十分とはいえません。
◆ 関係性の病理
もう一つは「関係性の病理」の視点です。
心理療法家や心理カウンセラーの視点と言い換えてもいいと思います。
気分障害や不安障害などのこころの病は、一見個人的な問題にみえるとしても、その背景にある家庭や職場の状況や人間関係から分離して論ずることはできないことが多いと考えます。
カウンセラーは患者を取りまく状況やひととの関係性が患者のうつ的気分や不安の背景にあると考え、患者が必要な社会的スキル身につけ「関係性」を改善できるように支援していきます。
カウンセリングルーム「青いそら」のカウンセリングも関係性を重視します。
◆ 対人関係療法
ひととの関係性に焦点をあてるセラピーのひとつに対人関係療法(Interpersonal Therapy, 以下IPTと呼びます)があります。
IPTでは認知には焦点をあてず、クライエントの気持ちや感情に着目し、症状を引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点をあてます。
うつ病や社交不安障害などの治療には効果とその持続性の両面で認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, 以下CBTと呼びます)よりも高い評価を受けています。
IPTが適用されるのは病的症状に人間関係が関わっていると判断される場合です。
何故なら対人関係に焦点を当てるIPTは、人間関係の改善と、うつや不安などの症状の改善は相関するという前提のうえに成り立っているからです。
人間関係における問題領域は、IPTにおいては、以下の4つにわけられます。
① 悲哀(grief)、
② 役割期待の不和(role dispute)、
③ 役割の変化(role transition)、
④ 対人関係の欠如(interpersonal deficit)
IPTでは、まずコミュニケーション分析などにより、問題を起こしている対人関係領域を特定します(決定分析)。
その上で戦略を決め(ケースフォーミュレーション)、症状と対人関係の係わりの理解、ロールプレイなどによる対人関係に対処する実践的スキルの修得、更には修得したスキルを実行(あるいは実験)と段階的に治療を進めていきます。
精神力動論などとは異なり、こころの内界やパーソナリティーそのもを治療の対象にすることはありません。
また、過去を分析するのではなく、今現在を起点としてこれからクライエントが対人関係をどんな形に、また、どんな方法で変えていくのかという将来に重点をおいています。